大きな荷物

僕の人生はとても順調です

僕のまわりには沢山の人がいます

安定した収入もあります

みんな、僕のことを優しい人と言ってくれます

みんな、僕の仕事ぶりを褒めてくれます

みんな、僕がいると場の雰囲気が明るくなると言ってくれます

みんな、僕の事を羨ましいと言います

僕はとても幸せ者です

 

そんなある日、道ですれ違った老婆が僕に話しかけてきた

「あんたひどい顔をしてるよ。そんなに沢山の荷物を抱えて・・・・少しは要らない荷

物を捨てたらどうだい?」

僕は自分のリュックの中身を覗いてみた

そこには僕が知らないうちに沢山の荷物が入っていた

一つずつ中身を取り出す

荷物のそれぞれに言葉が書いてあるようだ

「優秀でなければならない」

「人を喜ばせなければならない」

「一生懸命やらなければならない」

「安定した収入を確実に得ることができる仕事に就かなければならない」

「逃げてはならない」

「強くなくてはならない」

「いつも笑わなければならない」

荷物は次々に出てくる

そして、一番奥に入っていた荷物にはこう書かれていた

「助けて」

 

大量の涙が僕の頬を濡らす

僕は"しなければならない”など一度も思ったことはないはずなのに・・・・

僕は、なぜ今こんなに悲しいのだろう

老婆が言った

「この荷物は全部ここに置いていきな。この荷物はあんたを幸せにしないよ」

その時、とてつもない不安と恐怖が僕を襲った

「ダメです!それはダメです。そんなことをしたら・・・・」

「そんなことをしたら?」

なんてことだ

その時、僕は自分の本音に気づいてしまった

「・・・・・この僕でなければ必要とされない。そんなこと僕には耐えられない」

自分がこんなにも臆病な人間だなんて僕は知らなかった

老婆は言った

「あんたと私は同じ場所にいるが、どうやら全く違う世界に住んでいるみたいだね」

「違う世界・・・?」

「そうだよ。みんな自分が映す世界でしか生きることができないからね。私にとってこ

こは、自分を取り繕う必要のないとても安全で楽しい世界だが、あんたにとちゃ、この

荷物を抱えることでしか安心して生きることができない息苦しい世界のようだ」

そう言われ、僕は周りを見渡す

すると、さっきまで輝いていたはずの僕の世界が次々に色褪せていくではないか

「僕はどうしたらいいのでしょう?」

「そりゃ、あんたが決めな。荷物を全部持っていってもいい、全部置いていってもい

い、いくつか持っていってもいい。あんたの人生だ。人に選ばせるもんじゃない」

・・・・僕にはこの荷物を置いていくことなどできない

どんなに色褪せていてもこれが僕の全てなんだ

僕は、考えに考えて全ての荷物をリュックに戻した

そして老婆と別れ再び歩き出した

 

だが、しばらく歩いてふと立ち止まった

今までこんなに重かったか?

そうか、もう気づかないふりもできないのか

僕はリュックに手をかけた