先生と田中君  “君の人生はとても素晴らしい一本の道”

人生の選択に迷う少年が一人・・・・

田中「先生、ちょっといいですか?」

先生「大丈夫ですよ。どうかしましたか?田中君」

田中「将来のことについて相談したいのですが・・・」

先生「それは大切なお話ですね。いいですよ。そこの椅子にかけてください」

田中「あのですね、ぼくがゲームばかりしてるからなんですけど・・・母さんが結構うるさくて」

先生「そうですか」

田中「母さんは、今頑張って勉強して医者にでもなって欲しいと言うんですが、ぼくの成績でも医者は目指せるんでしょうか?」

先生「ほう。なるほど。田中君はお医者さんになりたいのですね?」

田中「なりたいというか・・・・」

先生「田中君、ぼくは素晴らしい職業だと思いますよ。何といっても人の命を救う仕事

ですからね。とても立派な夢だと思います。・・・確かに勉強は大変な努力を要するで

しょうが、不可能ではありません。いいですか、田中君。ゲームなんかしている暇はな

いですよ!頑張っていきましょう。・・・まあ知り合いの医者が、しばらくの間は看護

師さんより給料が低くて驚いたと言ってましたが・・・でもしばらく働けば高収入の職

業ですからね!知り合いも言ってましたよ。休みは全くと言っていいほどないが、とて

もやりがいのある仕事だと。なんせ、命に関わる仕事ですからね。あとこんなことも

言ってましたね。患者さんや家族に「なんでよくならないんですか!!」と詰め寄られ

ることもあるけども、とてもやりがいのある仕事だと。田中君、ぼくは君を応援しますよ!」

田中「・・・先生。別の案なんですけど」

先生「あれ?お医者さんはいいのですか田中君」

田中「はい。それはもう大丈夫です。それより、休みも給料の安定した公務員などが

やっぱり安心でしょうか?公務員であればゲームをする時間とれますよね?」

先生「まあ、公務員にも色々ありますからね。なるほど、田中君は公務員にもなりた

かったわけですね?」

田中「いや、なりたいというか・・・・」

先生「いいんじゃないですか?休みも給料も安定した公務員。ぼくは応援しますよ!」

田中「そうですよね・・・ありがとうございます」

先生「どうしたのですか?田中君。もっと嬉しそうな顔をしてくださいよ。夢の公務員ですよ?」

田中「・・・・・」

先生「田中君、少しぼくの話を聞いて貰ってもいいですか?君は自分の人生がとてもキ

ラキラした素晴らしいものだということに気づいていますか?そういう人生を送るため

にあなたは生まれて今ここにいるのですよ?」

田中「・・・・・」

先生「人生はね、一本の道のようなものです。歩きやすい道もあれば、歩きにくい砂利

道になることもある。そして分かれ道もあり、どの道を進むのか迷うこともあるでしょ

う。でもね、どの道を進むのかという選択権だけはあなた以外の誰にも譲ってはいけま

せん。それが、親でも尊敬する人でも、大勢の人がこっちだと指さしてもです。あなた

が幸せになる道は、あなた以外誰も知らないことを知っていてもらいたいのです。大人

になってもね、自分が唯一自分を幸せにできる存在であるということに気づかない人は

沢山います。そして、そんな人々は、往々にして「こんな環境でなかったら」「あの人

がもっと理解ある人であれば」「自分にもっと凄い才能があれば」「自分に運があった

ら」など、自分のもっているものには目を向けず、ないものばかりに目を向けていま

す。そんな風に自分を「可哀想な人」に仕立て上げてしまっている人の人生はとても色

褪せてしまう。そんな色褪せた人生を直視できないからこそ、人は娯楽や所有物、もし

くは人からの賞賛に目を逸らしてしまうのではないかとぼくは思っているのです。その

点、自分の幸せを真剣に考えて選んだ人の道は、とてもキラキラ輝き、その人を最高の

ゴールに導いてくれるんですよ。急がなくていいから、自分がどんな道を歩いて行きた

いのか自分の頭でしっかり考えなさい。君なら大丈夫だから。」

田中「先生、最後に一つだけ聞いてもいいですか?幸せの道ってどうやって分るんです

か?」

先生「そんなの簡単です。ワクワクする道に進んだらいいんですよ。本当に大切なのは

“何になるか”ではなく、“どう生きるか”なんです。君らしい生き方をしたら絶対幸せにな

れますよ。自分を信じてください。君は多分どの道に進みたいかもう気づいてるのでは

ないですか?」

田中「・・・・・先生。ぼくの幸せになる道は母さんに反対される道かもしれません。

また相談にのって貰っていいですか?」

先生「いつでもいらっしゃい。君たちの話を聞くことがぼくの楽しみですからね」

田中「ありがとうございます!」

それが少年の道がキラキラ輝きだした瞬間でした。 

少年の選んだその道が、彼の想像を遙かに超えた素晴らしい道になることはまだ誰も知

りません・・・     

                           おしまい