幸せを掴む女②

1話の続きです。

 

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それからとにかく私は婚活励んだ。温かい家庭を築くのが私の夢なのだ。

変な男に騙されている時間などない。

相手が年収に嘘をつけない確実な結婚相談所で必死に探した。

相手が太っていようが、禿げていようが、多少歳が離れていようが、そこにあるはずの

前歯が1本無かろうが、そんなことは全く気にならなかった。

私にとって結婚生活の障害になるものは収入だけだ。

性格の相性なんて今考えたところでどうせ分からない。もし暴力を振るうような男であ

ればその時考えるしかない。

 

そして、婚活を始め2ヶ月が過ぎた頃、私は一人の男性と出逢った。

40歳、バツイチの彼は一見穏やかそうで収入も申し分ない。

「こんな活動しなくても、いくらでもお相手見つかるんじゃないですか?」

私は彼に聞いた。

「どうでしょうか。もしかしたらぼくは相手に癒やしを求め過ぎるのかもしれません」

彼は少し困ったような顔をしながら口角を少し上げて笑った。

自分で言うくらいだ。相当な何かがあるのかもしれない・・・

若干心配しながらも、「大丈夫、問題ない」私は心の中でつぶやいた。

 

それから3年後、街中を歩いていると、奈津子と恵子とばったり出会った。

そういえば、あの居酒屋の時から会ってなかったな・・・いつだったっけ?

若干気まずそうな表情をしながら「あっ、久しぶり・・・」と私に声をかけた二人に、

私は笑って「久しぶりだね。元気?」と返事をした。

私は、二人に対する恨みも、あの時私が発した言葉に対する後悔や気まずさも何も感じ

なかった。それどころかあの惨めな経験にも二人にも感謝していた。周囲から見下れ、

それでも友達という名ばかりのものに執着していた自分。そんな自分にとことん嫌気が

さしたあの経験があったからこそ、私は人への執着を手放すことができた。大切なもの

だけ持とうと決心した私は強く、そして自由になった。

「最近どう?」と聞いてきた奈津子に、私は結婚したことを伝えた。

それを聞いて驚いた恵子は

「え?マジ?金持ちと?」

と興味津々に聞いてくる。

「あははっ!まぁ有り難いことに生活していくお金に不安はないよ。その代わり結構細

かいけどね。掃除もそうだけど、食事の内容やレパートリーや料理を出すタイミング、

あとお風呂沸かすタイミングとかあと相手の行動を制限しない、休みの日も彼がやりた

いことを自由にやらせるとか・・・・後なんだっけ?まぁ色々ね」

それを聞いた恵子は

「・・・・何それ。召使いか奴隷じゃん」

と顔をしかめた。奈津子もドン引きしているのが一目で分かる。

私は二人の反応のストレートさにおかしくなって笑いながら首を横に振った。

「違う違う!勘違いしないで。仲いいんだよ私たち。ほら、私何もパッとするところな

かったから、25歳くらいの時、何か取り柄になるものないのかなぁって悩んでた時期

あって・・・。でね、落とし物で困っている人がいた時に一緒に1時間くらい探したの

かな。その時すっごく感謝されてめっちゃ嬉しかったんだよね。

で、気づいたの。私の取り柄は人を喜ばせたいと思えることなんだって。旦那も凄く喜

んでくれてるし、私もそれが凄く嬉しいの、本当に」

それを聞いた奈津子は、溜め息を漏らして

「やっぱり世の中さ、家事が得意な女が得するようになってるんだよ」

と私に言った。

私はそれに対して「ありがとう」と言って二人と別れた。

正直、私は「家事が得意な女が得をする」なんてこれっぽっちも思っていない。

私は、あくまで温かい家庭をつくるのが夢だった結果、家事が得意になっただけだ。

そして、相手が自分の時間を自由に過ごしたいと望み、それに答えたから彼は一

層私に優しくなり、私の言い分も聞いてくれるようになった。只それだけの話だ。

恵子だって、あれだけお洒落が好きならデザイナーでも目指したらいいのだ。どれだけ

でも感動を味わえるだろうし、人に感動を与えることもできるだろう。それが無理だと

うのなら、努力をする前からその限界を創っているのも自分自身だ。幸せになるか、な

らないかの分かれ道を選んでいるのはいつだって自分自身だ。

私は半年前、不妊症の診断をうけた。私も旦那もお互いの両親も大きなショックを受け

た。私はとても子どもを欲しがっていた旦那に別れてもいいと言ったが、彼は別れない

選択をした。私はとても彼を愛しているので、そう言ってくれた彼に感謝している。

そして、もっともっと幸せにしたいと思った。それでも、いつかまた、彼がやっぱり子

どもが欲しいと願い、私との別れの望むことがあれば私はそれを受け入れるつもりだ。

彼に執着し、彼の幸せを阻むことは私の幸せ道に反する行為だから。

それに、私は信じている。もしそんな辛い経験をしようとも、それを乗り越え、更に私

自身を幸せにする選択をする力が私にはあると。

・・・とまぁ、色々考えたところで、今私が幸せなことには違いない。

仕事を頑張る彼の顔を思い浮かべながら、幸せを噛みしめ大きな声で言った。

「よーし!今日の夕食は何をつくって喜ばせようか!」

                          おしまい。