幸せを掴む女①

とある居酒屋の一室に、35歳を目前に控えた女が3人・・・・。

「あ~どっかにいい男いないかなぁ・・・。結婚はしなくていいんだよ。家事も毎日しなくちゃいけなくなるし。今の仕事で食べていけないこともないしね」

奈津子は艶やかなストレートの髪を指先でいじりながらため息をついた。

色白でシャープな顔立ち、加えてスタイルもよい彼女はそれだけの動作でも様になる。

彼氏はできるが、別れるのも早い。彼女が半年以上付き合った男性は・・・・聞いた話

では見当たらない。

「いないいない!この歳になると本当難しいよ。でも確かに何で私達に彼氏がいないん

だっ!て話しだよねぇ」

恵子はビールを片手に自嘲気味に首を横に振って笑った。

アパレル企業に勤める彼女は特別美人というわけではないが、とてもセンスがいい。メ

イクも髪型も服装も持っている小物に至るまで全てにおいてお洒落なのである。

彼女の口癖は「お洒落にお金使えなくなるくらいなら死んだ方がマシ。ダサい男と付き

合うくらいなら一生独身の方がマシ」である。

「私は絶対結婚するよ。相手は絶対収入が高い人がいいな」

私は言った。あまり仲の良いとは言えない両親に育てられた私は、小さい頃から温かい

家庭をつくるのが夢だった。子どもだってまだ産める年齢だ。収入で結婚相手を選ぶな

んて最低だと思われるかもしれない。収入が原因で結婚を決断できず別れた彼氏もい

る。しかし、両親がお金のことで揉めているのを数多く見てきたせいか、これだけは絶

対譲りたくなかった。

彼女らは嘲るように笑って私に言った。

「冗談でしょ?!そんなこと言ってたらあんた一生結婚できないよ?」

 

私は知っていた。彼女らは私が34歳だからお金持ちと結婚出来ないと言っているので

はない。「何の取り柄もない私がお金持ちと結婚できるわけがない」と言いたいのだ。

私は学生の頃からずっと彼女らと比べられてきた。顔も服装も性格も地味でぽっちゃり

体型の私が何で私がこの華やかな二人と友達なんだと言われたこともある。そんな時、

彼女らは「そんなことないよねぇ」言いながら楽しそうに笑っていた。しかし、私は彼

女らの本心をすでに知っていた。私が近くにいないと思い、二人が私のことを「何の取

り柄もない」と言っているのを偶然聞いてしまったことがあった。

私は、二人の話をひたすら聞きく引き立て役としてそこに存在していた。

私は、今も尚この関係に執着してヘラヘラ笑っている自分にウンザリしていた。

でもそんな自分と決別する。そう決めて今日ここにきたのだ。

私は笑顔で彼女らに質問した。

「何で?何で私がお金持ちと結婚出来ないと思うの?34歳だから?それとも何の取り柄

もない私だから?」

さらに、慌てて何かを言おうとした二人の言葉を遮り

「私もう帰るね。2人とも綺麗だから絶対幸せになれるよ!頑張って」

と言い残し、代金をテーブルに置いて店を出た。

とても清々しい気分だった。

こんなに夜風が気持ちいいと感じたのはいつぶりだろう。

                         2話につづく・・・・