ひとりぽっちのくまのこフータと老いたフクロウの物語②
一話目の続きです。
「ちょっと待って!ぼくはそんなものが欲しいんじゃないよ。ねぇ、ずっとこのま
まなんて嫌だよ。ぼくはどうしたらいいの?」
するとフクロウはフータにこんな風に尋ねました。
「そうじゃな。おまえさんにもし友達がいたらなんて声をかけるんじゃ?」
フータは憧れのエヴァと友達になったイメージを一生懸命膨らませます。
「え~っと・・・したことないからよく分からないけどまず“おはよう!”って言うん
じゃない?・・・あっ、あとね後ろから“ワッ!!”って驚かせたり、ふざけ合った
り・・・んふふ楽しそうだなぁ」フータの顔はニッコニコでとっても楽しそう。
それを聞いたフクロウはフータにこう言いました。
「そうか、じゃあ明日それをやりなさい」
フータの楽しい気持ちはどこえやら。早速さっき話したことを後悔しはじめました。
「え?何言ってるの?まだ友達じゃないのにそんなのできないよ・・・」
するとフクロウはこう言いました。
「実はわしには未来が見える力があるんじゃ。だからおまえさんが出来ることを知って
いる。おまえさんはしたことがないから“出来ないと勘違いしている”だけなんじゃ。
よーし!今おまえさんの未来をみてやろう。 ・・・よしよし、明日はすでに友達になる
ための行動が達成できておるな。更に先を見てみようかな・・・これはこれは!友達と
じゃれ合って実に楽しそうにしている」
フータはフクロウの“未来が見える”という素敵な話に興味津々!
「それ本当?信じていいの?」
フクロウは胸を張って堂々と答えます。
「わしは生まれてこのかた1回もウソなどついたことはない」
声をかけている未来があると聞いたフータは何だか少しやれる気がしてきました。
「明日ぼくやってみるよ!」
次の日の朝、一大決心をしたフータは何やらブツブツ言いながら家をでました。
「おはよう!・・・おっはよー!・・・やあエヴァ!・・・どんな感じが自然かな。
それと・・・昨日発売のギャンプもう読んだ?ぼく持ってるけど貸そうか?なんて付け
加えたら会話が弾むかもな・・・う~んエヴァが一人だと声かけやすいんだけどなー」
そんなこんなで作戦を練っているととうとう学校に着いてしまいました。
そして丁度靴箱には靴をいれているエヴァの姿があるではありませんか!
「よかったぁエヴァは今一人みたい。早く声をかけないと友達が来ちゃう💦」
フータはフゥーと大きく息を吐いてエヴァのもとへ急ぎ足。
エヴァの後ろから勇気を振り絞って声をかけます。
「お・・・おは・・」
練習した言葉を一生懸命口から出そうとしますが、緊張で上手く話せず顔を上げること
もできません。
エヴァは一瞬振り向きましたが、そのまま教室の方に歩いて行ってしまいました。
フータは悲しいやら悔しいやら情けないやらとっても胸が苦しくなりました。
そして、その日一日中「皆に声をかけようとしたことを言いふらされたらどうしよう。
笑われているかもしれない」と沈んだ気持ちで過ごしたのでした。
その夜フクロウが来た途端フータは待っていましたとばかりに怒りをぶつけました。
「やい!この嘘つきフクロウめ!おまえが出来ると言ったからしたのに出来なかった
じゃないか💢上手く話しかけることもできなかったし、これを皆に言いふらされていた
ら最悪だ!!皆に笑われてるかもしれないよ。どうしてくれるんだよ」
フクロウは笑って答えました。
「いや、予定通りじゃよ。誰もおまえさんが、“上手く話しかけれる”なんて言ってはお
らん。実際おまえさんは今日、話しかけるための練習をして、友達の側まで行き、声ま
でかけた。今までこれの1つでもしたことがあったか?それをおまえさんは今日3つもな
しとげたんじゃ。これが達成でなくてなんなのだ。」
フータはフクロウに言われて「初めて出来た」ことが3つもあることに気づきました。
しかしそれでも心のモヤモヤはとれません。
「たしかにそうだけど・・・でも上手くできないなら意味ないよ。その証拠に今日はと
ても憂鬱な気持ちで過ごすことになっちゃったんだから」
するとフクロウは言います。
「おまえさんは今日、“やーい!おまえは挨拶もろくに出来ないのかよ。恥ずかしい奴だ
な”と直接笑われたのか?あと、おまえさんは自転車にのるじゃろ?初めからスイスイ転
ばずに乗れたのか?」
フータは何だかフクロウに怒られているような気分になってきました。声もだんだん小
さくなってしまいます。
「いや・・・言われてないけど・・・自転車も初めは結構転んだかも・・・ねえ、もし
かして怒ってる?」
その様子を見たフクロウは優しい顔でフータに話しかけました。
「いいや、これっぽっちも怒っとらんよ。これと一緒で人の気持ちなんて確認するまで
は殆どがおまえさんの思い込みなんじゃよ。おまえさんが思っているほど周りはおまえさんのことなど気にしていないもんじゃ。思い込みで嫌な気分で過ごすほど無駄なこと
はない」
続けてフクロウは言います。
「おまえさんは自分のことを“できない”と大分勘違いしているみたいじゃから“ぼくは失
敗しても何度もチャレンジして必ず成功する”と毎日鏡に向かって言ってみるといい。そ
して、しっかりその自分をイメージするんじゃ。そして今日したことに毎日チャレンジ
してみなさい。その行動をしておまえさんの望む未来がくることが未来に映し出されておる」
フータはできるかどうか不安でいっぱいでしたが、ひとりぽっちから抜け出すにはやる
しかありません。
「フクロウさん・・・明日も明後日もその次の日も来てくれる?」
不安なフータがフクロウに尋ねると「当たり前じゃ」とフクロウは笑ったのでした。
次の日からフータは毎日毎日「エヴァに声をかける」挑戦をしました。近づくことも出
来ない日があっても、声が小さくて気づかれないことがあっても“ぼくは失敗してもチャ
レンジして必ず成功する”とずっと自分に言い聞かせながら毎日チャレンジし続けました。
そして2週間が過ぎたころ、朝エヴァに声をかけれなかったフータは「お昼ご飯に一緒に食べてもいい?」と言う決心をしました。
そして友達とご飯を食べ始めたエヴァのもとに行き、勇気を出して声をかけました。
「あ・・あの・・・ぼ、ぼくも・・あの・・ご飯・・・」
フータは緊張で声も手も足も震えて上手く話せない自分が情けなくて涙が出そうになり
ました。そしてその時、震えていた手からお弁当箱が床に落ちてしまったのです。
「あ・・・ぼくのお弁当・・・・」
悲しさと情けなさのあまり、とうとうフータの目から涙がこぼれ落ちてしまいました。
それを見たエヴァとエヴァの友達は我慢できずに吹き出してこう言いました。
「あっはっは!おまえ弁当くらいで泣くなよ。おれのおかず一個やるよ」
エヴァの友達もみんな一つずつおかずを分けてくれます。
フータはエヴァに聞きました。
「ぼくここでご飯食べてもいいの?」
するとエヴァとその友達は笑って答えます。
「いいんじゃない?」
フータは嬉しくて嬉しくて大きな粒の涙をボトボト床に落としながら泣きました。
それをみてみんなはまた吹き出して大笑い。
「泣くようなことじゃないだろ!おまえ初めて話したけど本当に面白いやつだな」
とエヴァがハンカチを貸してくれますがフータは涙が止まりません。
その日の夜、フータはこの出来事を早くフクロウに話したくて仕方ありませんでした。
しかし、夜になってもフクロウは現れませんでした。次の日もその次の日も。
ある日の朝フータが少し寂しい気持ちで登校していると、後ろからエヴァが
「おはよう!フータ。昨日でたギャンプみた?」と話しかけてきました。
フータは振り向き笑顔で答えます。もうフータはひとりぽっちではありませんでした。
フータは心の中でフクロウに「ありがとう」と伝え、たくさん友達のいる学校の方を向
いて歩き出しました。 ☆おしまい☆